「S&P500とオルカン(全世界株式)を両方買うのは、資金の無駄遣いだ」
SNSや投資ブログを開けば、判を押したようにこの言葉が並んでいます。「オルカンの約60%は米国株なのだから、両方買うのは単に米国比率を歪めているだけ」「カレーライスにカレーを掛けるようなもの」……。
確かに、数学的な集合論で言えばその通りです。ポートフォリオの重複は資金効率を下げるとされるのが現代ポートフォリオ理論の定石です。
しかし、私はあえて言いたい。その批判は「企業活動の実態」を無視した机上の空論に過ぎない、と。
今回は、あえてこのタブーとされる「二刀流」を、「米国企業と世界経済の循環構造(フィードバック・ループ)」という奇抜な視点から肯定的に解剖します。これは、単なる分散投資の話ではありません。世界経済の成長を、米国企業という「集金装置」を使って二重取りする、攻撃的な戦略論です。
教科書的な批判:なぜ「二刀流」はバカにされるのか

まずは、一般的な否定論を整理しておきましょう。ここを理解せずに反論はできません。
重複率60%の罠
eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)の構成比率を見ると、その約6割を米国が占めています。つまり、S&P500とオルカンを1:1で保有した場合、ポートフォリオ全体の米国比率は約80%に達します。
「それなら最初からS&P500一本にするか、オルカン一本でいいじゃないか」というのが合理的な指摘です。
管理コストとリバランスの手間
似たような動きをする2つの商品を管理するのは、精神的にも手間がかかります。下落時には両方同時に下がるため、分散効果(リスク低減効果)はほとんど機能しません。
これが「常識」です。しかし、この常識には「株価の連動」しか見ておらず、「ビジネスの連動」が見落とされているという欠点があります。
独自の仮説:「搾取する米国」と「肥える世界」の循環

ここからが本題です。なぜ二刀流が「悪」ではないのか。
それは、S&P500構成企業の売上の源泉が、米国外(オルカンの構成国)にあるからです。
「オルカン諸国」の成長は誰の利益になるか?
例えば、オルカンに含まれるインドやブラジル、東南アジアの新興国が経済成長したとします。
彼らの中間層が豊かになり、財布の紐が緩んだとき、何を買うでしょうか?
つまり、オルカンに含まれる「米国以外の国」が豊かになればなるほど、その果実は現地の企業だけでなく、海を越えてS&P500のトップ企業群に「売上」として吸い上げられる構造が出来上がっています。
S&P500は「米国株」ではなく「多国籍軍」である。
S&P500企業の売上の約40%以上は、海外(米国外)から得られています。
S&P500を買うということは、米国国内に投資しているのではなく、「世界中から利益を吸い上げるシステム」に投資しているのと同じです。
この視点に立つと、二刀流には以下のようなシナジー(相乗効果)が生まれます。
オルカン側の国々が成長すればするほど、S&P500側の企業の売上が伸びる。この「ダブル・リターン」こそが、二刀流の隠された真価なのです。
「米国偏重」ではなく「米国レバレッジ」と捉える

二刀流を批判する人は「米国への集中リスクが高い」と言います。しかし、肯定派の視点ではこれを「意図的なレバレッジ(テコ)」と捉えます。
オルカンを「ベース」、S&P500を「ブースター」にする
オルカン一本では、AppleやNVIDIAといった「ハイパーグロース企業」の比率が薄まってしまいます。一方で、S&P500一本では、万が一の「米国没落(ドルの崩壊)」に対応できません。
二刀流は、「世界経済という保険(オルカン)」を掛けつつ、「最も稼ぐプレイヤー(S&P500)」の比重を高める「アクティブ運用」の一種なのです。
このポートフォリオは、無思考な重複ではなく、「世界経済の成長エネルギーを、最も効率よく利益に変える変換装置としての米国企業」に賭ける、非常にロジカルな戦略と言えます。
批判的検証:この理論が破綻するシナリオ

もちろん、投資に聖杯はありません。この「ダブル・フィードバック理論」にも致命的な弱点があります。公平性のために、批判的な視点も提示します。
シナリオA:ブロック経済化と「デカップリング」
もし世界が分断され、中国やインドが「米国製品の排斥(iPhone禁止、Windows禁止など)」に動いた場合、この理論は崩壊します。
S&P500企業が世界から利益を吸い上げられなくなれば、米国の成長は止まり、二刀流は共倒れになります。この場合、現地のローカル企業しか含まない「除く米国」のような指数が必要になります。
シナリオB:ドルの独歩安
S&P500もオルカンも、基準価額はドルベースで計算されます。
もし米国の信用が失墜し、急激な「ドル安」が進んだ場合、円ベースでの資産価値はダブルパンチで減少します。この為替リスクを「通貨分散」できていない点は、二刀流の明確な弱点です。
シナリオC:イノベーションの地殻変動
次のGAFAMが、米国以外(例えばインドやアフリカ)から生まれた場合です。
S&P500はその企業を取り込めません。オルカンには含まれますが、比率は希釈されます。この場合、S&P500を持っている分だけ、機会損失が発生します。
結論:二刀流は「最強の矛」と「最低限の盾」である

S&P500とオルカンの二刀流は、決して「情弱の選択」ではありません。それは、「世界は成長するが、その果実を一番美味しく食べるのは結局アメリカ企業である」という、冷徹なリアリズムに基づいた投資判断です。
この2つを保有することで、あなたは世界経済の「拡大」と「集約」の両方のプロセスからリターンを得ることができます。
もしあなたが、今後もGoogleが世界中のデータを支配し、iPhoneが世界中の若者の憧れであり続けると信じるなら、S&P500による「米国偏重」はリスクではなく、必然の帰結です。
インフレと円安が進む現代日本において、教科書通りの「綺麗な分散」だけが正解とは限りません。多少の歪み(重複)を受け入れてでも、成長の源泉に資金を集中させる。
この「歪み」こそが、凡百の投資家を出し抜くリターンの源泉になるかもしれないのです。


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